こんにちは!ハワイでアクアポニックス研修中の大竹です。
アクアポニックスは水を循環させて野菜と魚を同時に育てるため、水質は重要な管理項目の一つです。水質は育てる野菜と魚に応じて適切なバランスがあり、これを維持することがポイントとなります。
今回は水質を維持するため、実際に農場で行われている管理方法を紹介します。
<エサやりも立派な水質管理>
魚へのエサやりは毎日行います。給餌は、魚の生命を維持しているだけではありません。魚を通して野菜に栄養を供給することも目的としています。そのため、野菜を健康的に育てるためにも、エサやりは大切な作業の一つです。
エサの量は、育てる野菜の種類によって一日の必要量が決まります。
しかし、決まった量のエサを毎日与えていても水質が変化する場合があります。植えられている植物の量、pHなどが変われば、吸収される栄養量も変わるからです。
例えば、収穫後、植物が少ないときに魚のエサを減らさずそのまま与え続けてしまうと、植物が栄養を吸収しきれない分、水中の硝酸塩濃度が上昇します。硝酸塩が高濃度になりすぎると野菜が窒素過多になり、虫がつきやすくなります。
給餌は基本的な作業ですが水質のバランスを保つためには、野菜ベットの状況や水中の硝酸塩濃度をよく確認してエサの量を調整していくことが大切です。
<水質の検査>
ili’ili farmsでは、週に1~2回の定期チェックのほかに、野菜の健康状態によって都度検査をしています。
水質の検査にはAPI試薬を使用することが安価で簡単です。アクアポニックスで管理すべきほぼ全ての水質項目(pH,アンモニア、亜硝酸塩、硝酸塩)を測定することができます。
農場では、硝酸塩、カリウム、カルシウムの3項目については、より正確に数値が測定できる電子測定器を使っています。
農場では主にHORIBAコンパクトメーターを使用しています。使用方法はとても簡単です。サンプルを取る前に校正液にてセンサーの校正を行います。校正後、サンプルとなる水を採取し、測定するだけです。検査は数秒で終わり、1ppm単位から結果が表示されます。
電子測定器のメリットはより正確に水質を確認することができ、検査時間も少ない点です。正確に水質を見ることで魚に与えるエサの量や、肥料の添加量を細かく調整することができます。
また、複数のシステムがある場合に、素早く検査をすることができるため、時間短縮にもつながります。
ただ、電子測定器にはデメリットもあります。
それは、価格が高いことと、電子機器のため壊れてしまうことです。
電子測定器は栄養素の種類ごとに購入するため、一台あたりの値段は試薬よりも高価になります。加えて、センサーが壊れてしまえば修理や買い替えが必要です。
状況によってはセンサーが壊れているにも関わらず、気付かずに使ってしまうこともあります。研修中にもそのようなことがあり、実際には水質が管理値の範囲内であったにも関わらず、測定器はそれよりも高い数値を示し続けていました。
良い点、悪い点を理解した上で利用することをおすすめします。
また、水質を検査したら結果を記録することも大切です。
水質はアクアポニックスのシステムごとに個性があり、同じような管理をしていても差異が生じます。記録した検査結果を分析するとその特徴を把握できますので、より無駄のない管理ができるようになります。
紙でも表計算ソフトでもどのような形でもよいので、記録を残すようにしましょう。
<水質の管理方法>
水質検査をした際、栄養素の濃度が管理数値から外れていたら何かしらの対応が必要です。栄養素の過不足は直ちに影響はないものの、徐々に野菜の健康状態を悪化させていきます。
栄養素が不足したら肥料を加えて調整するという方法もありますが、不足するであろう栄養素を想定して定期的に肥料を添加するという方法もあります。
大規模なシステムでは栄養不足による影響が大きくなることから、栄養が不足する前に肥料を加えると良いでしょう。その際、必ず肥料を加える前後に水質を検査し、肥料の量を調節すると過剰に添加しないで済みます。
ili’ili farmsでは後者が選択されており、週に一度ほど肥料を添加することで野菜の健康を維持していました。肥料の添加方法は、水に直接添加する方法と、葉面散布する方法があります。
使う肥料によって使い分けますが、肥料のコストによって添加する方法を変えることもあります。
例えば、アクアポニックスのシステムにDWC(Deep Water Culture)が採用されている場合、システム全体の水量が大きくなるため、水中の栄養素濃度を上げるためには大量の肥料が必要となります。
※アクアポニックスのシステム種類についてはこちらの記事も参照ください。「アクアポニックスの超基礎④どんな種類のシステムがあるの?」
肥料は栄養素によって価格が違い、なかには高価なものもあります。高価な肥料を水に直接添加してしまうとランニングコストが上がる要因となってしまうため、そうした肥料は葉面散布に切り替えることで使用量を減らします。
<最後は目で確認>
水質管理は、測定結果を用いてデータで管理することができます。それでも最後はやはり野菜の状態を直接目で見ることが大切です。
もし栄養素が足りていなければ、野菜から欠乏のサインが見て取れるため、原因を探ることができます。
例えばカリウムが不足すると葉が黄色くなります。
栄養素によっては欠乏のサインが似ているため正確に判断することは困難ではあるものの、すぐに原因を探し、対応を施すことができます。そして、その繰り返しが経験値となります。
測定器に頼り切るのではなく、実際に野菜の状態を確認することが大切です。
<制作したNFTが稼働し始めました>
制作中だったNFT(Nutrient Film Technique)システムの一部が稼働を始めました。
NFTシステムは使用する水の量が少なく、根が空気に触れやすいためDWCのように野菜ベット内にエアレーションを設置する必要がありません。またネットポットを利用することなく野菜を栽培することができ、野菜ベットの掃除も簡単です。
ただ、実際に運用してみるといくつかの問題が生じてしまいました。
①野菜ベットが動き、水が漏れてしまう。
このNFTシステムは、温室内ではなく、屋外に設置されています。加えて、野菜ベットは基礎の上に置かれているだけなので、強い風が吹くと野菜ベットが動いてしまい、水漏れが発生することがわかりました。
NFTシステムは水量が少ないぶん軽いので、屋外に設置する場合は野菜ベットが動かないよう固定する必要があります。
②ろ過装置の検討が必要
NFTシステムは点滴灌漑用の細いホースを利用しているため、ゴミなどで簡単にホースが目詰まりを起こします。育苗培地に土やココピートなどを利用していると、それが目詰まりの原因となることもあります。そのため物理ろ過装置を設置して、しっかりとゴミ等を取り除く必要があります。
③水が苗に触れずに流れてしまう
写真のように水が野菜ベットの端を流れ、水が苗に触れないまま流れているものがありました。
これは基礎が水平をとれておらず、水量も少ないことが原因です。水が苗に触れなければ野菜は枯れてしまいますので、制作時は注意が必要です。
このように実際に運用してみると様々な不具合、失敗が出てきます。大型のシステムを作る際には、一度にすべてを建設するのではなく、まずは小さなシステムを作り、運用してみて不具合や作業効率などを検証することが大切です。
<ハワイでの研修が終わりました>
5月中旬からハワイに滞在し、約2か月半のアクアポニックス研修が終了しました。
出国前にアクアポニックス・アカデミーの講座を受講して、なぜアクアポニックスで作物ができるのか、そのエコサイクル理論について理解はしていました。
実際、その自然の循環のなかで植物や魚たちが元気に成長するのを目の当たりにして、理解を超えた大きな感動を得ることができ、アクアポニックスへの興味もより深まりました。
アクアポニックス農園は、化学合成農薬も化学肥料も使用しないため、鳥や虫などの生き物が多く集まります。
多様な生物がいることによって害虫となる種が増えすぎることがなく、野菜も被害をほとんど受けることなく栽培できました。
環境保全型農業として、アクアポニックスの大きな可能性を感じることができたトレーニングでした。
日本へ帰国後は、今回の研修で得た知識、経験を生かして、アクアポニックス農場を作ります。また、株式会社おうち菜園と協力して、日本へアクアポニックスを普及する活動に加え、アクアポニックスを始めたい人への技術支援などもしていきたいと考えています。
6回に渡りトレーニングレポートを寄稿させていただきました。最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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