導入コンサルテーション
アクアポニックス農業のメリット、デメリット、課題と対策を解説【植物工場と比較】
導入コンサルテーション
アクアポニックスの事業化を検討している人
「アクアポニックスのメリットやデメリットについて網羅的に知りたい。」
「デメリット(課題)とその対策はあるんですか?」
「植物工場との違いは何ですか?」
この記事では、こういった疑問に答えます。
√本記事の内容
・アクアポニックスのメリット【6つ】
√この記事を書いている私の経歴
・自社のアクアポニックス研究農場&生産農場を神奈川県藤沢市に開設
・収穫量が7倍以上、LED電気代が半額になる縦型栽培システム「水耕タワー」を発売
・世界で初めてアクアポニックスに特化した生産管理アプリ&センサーをリリース
・過去2年間で30以上のアクアポニックス農園を全国に開設(日本最大規模を含む)
・著書:「はじめてのアクアポニックス」
アクアポニックス農業のデメリット、課題とその対策
以前にこういったツイートをしました。今回はこの内容にそって解説していきます。
1.初期投資が高い(数百万〜数千万円)
アクアポニックスは植物工場と同じように施設園芸なので、初期投資は高くなります。特にハワイの大規模アクアポニックス農場(NFTシステム)の例では、その投資額が顕著です。
ただし同じ程度の生産規模を持つ植物工場と比べると、約半額に収まります。
それでも露地栽培と比べると高額ですね。
対策としては、いきなり大きなシステムに投資するではなく、まずは初期投資を極小化させて試験栽培からはじめることをお勧めします。
(弊社の施工事例では、新規事業の場合、1年~2年ほど実証試験を行うことが多いです)
また、2024年現在では、補助金や助成金で活用できるものも増えてきました。
事業再構築補助金や持続化給付金を使って導入した事例もあります。また、各自治体のレベルでも様々な助成金支援を行っており、スマート農業や新規事業に対する助成金などを使用することで、コスト面のハードルを下げることもできるようになっています。
参考»「アクアポニックス事業化で失敗しないために事前に知るべきこと」
2.認知度が低い(ブランディングできてない)
アクアポニックスとは、無農薬、無化学肥料、無除草剤の有機農法です。生産される作物は極めて安全かつ高品質なもの。
しかしながら、日本におけるアクアポニックス産野菜のブランドはほとんど確立されていません。
それだけにチャンスは無限にあります。
農場を作るとテレビや新聞などメディアからの取材も多くあると思います。お客様へその価値を分かりやすく伝え、価格に反映させるブランディングを常に意識しましょう。
余談ですが、皆さんは「植物工場産」と書かれたパッケージやポップを店頭で見たことがありますか?殆ど無いかと思います。植物工場産の野菜を使っている大手外食チェーンのホームページにも、植物工場産についての記載は一切ありません。伝えづらいネガティブ要因があるのだと思いますが、こうはなって欲しくないですね。
アクアポニックス産野菜のブランディングはこれから。できれば業界全体で取り組んでいきたいものです。
3.リーフレタスの販売単価が低い
アクアポニックスでは需要と価格面からリーフレタスを栽培することが多いですが、ブランディングできていないので現状の価格は植物工場産と変わらないと考えるべきです。
植物工場産の100gリーフレタスを大田市場(東京都卸売市場)の仲卸へ持っていくと、大体1株100円で買い取ってくれます。1円/gが基準です。
余談ですが、私のいるアメリカではこの倍以上の価格で売れます。研究農場でリーフレタスが採れすぎるので一部をコロンバス動物園とシーワールドへ動物やマナティの餌として販売していますが、この場合に1株100円で卸しています。
対策としては、まずワーストケースである1株100円で経営が成り立つコスト構造にしましょう。それから、卸以外の販売先を開拓して単価を上げていきます。
この場合の販売先としては、高品質な野菜を求めるレストランやホテルなどがベストだと思います。アクアポニックスやその野菜の価値を知ってもらったうえで直接契約を結び、安定した販売先を確保することができれば収益性も安定してきます。
尚、コスト構造は栽培施設の設計で決まります。
4.日本だと魚(淡水魚)が売りにくい
売りにくいというか、単価が低いというのがより正しいです。
アクアポニックスで一般的に育てられる魚は、ティラピア、ナマズ、コイなど。理由はここでは割愛しますが、単価の低い魚ばかりですね。養殖業では1,000円/㎏以下だとあまりやる意味ないので、販売価格は事前にチェックしましょう。
※2024年時点では、上記の魚にくわえて「ホンモロコ」の飼育事例が増えてきました。ホンモロコは琵琶湖原産の魚で、「コイ科で最も美味しい魚」と言われています。ちなみに、取引価格も3,000円/kgと高級魚に入ります。
対策としては、魚の収益無しで経営が成り立つコスト構造にすることです。つまり「魚は売らなくても黒字を確保し、売ればプラスアルファ」という状態を作ります。コスト構造は栽培施設の設計で決まります。
参考»「アクアポニックス養殖魚の種類【完全版】メダカからチョウザメまで」
5.人材育成。農業と養殖の知識が必要
アクアポニックスは農業と養殖、両方の知識が必要なのは事実ですが、、、
過度な心配は無用です。
というのも、現在アメリカでアクアポニックス農場の設計、施工、栽培指導を行っていますが、ほぼ全ての方が農業未経験です。全く問題ありません。
余談ですが、アクアポニックスの作業はマニュアル化しやすいので、未経験の方はもちろん、園芸介護や障がい者就労支援などにも向いています。
アクアポニックスは、従来のように野菜だけ、または魚だけを育てるのではなく、システム全体で野菜と魚と微生物の共生環境を作り、その生態系のなかで自然に作物が育ちます。
育てるのでなく「共生環境を見守る」、という表現が近いでしょうか。
自然が常にそこにあるように、アクアポニックスも共生環境(生態系)が形成されるとそれが半永久的に持続するので、その分作業負担も減ります。
システム全体の構造、使い方、毎日のルーティン、トラブルの対処法など、基本的なことが分かれば、後は「習うより慣れろ」です。アメリカ人にできているので、できないことは無いと思います。
尚、人材育成については、未経験でも基礎から応用まで2日で習得できるコースを開講しているので内容確認ください。
詳細»「アクアポニックス・アカデミー」
6.病害虫管理。有機なので当然大変
有機農業は病害虫との戦い、と言われますね。アクアポニックスも有機農業ですが、原則として温室や建物内で栽培するので、病害虫管理の難易度はだいぶ下がります。
対策としては、対処よりも予防が大事。そして予防はほぼ施設の設計で決まります。具体的には、二重扉やハウス内外の舗装、除草対策などです。ハウス内へそういった要因を持ち込ませない設計にすることが重要で、その他ハウスへ入る際のルール決めなども大切です。
きちんと予防ができていれば、対処は楽になります。手で捕殺したり、被害を受けた部分をカットして破棄、害虫駆除シートなどの物理的防除が最も効果的でしょう。
ニームオイルスプレー等の有機的防除を行うこともあります。
購入した苗を使用する場合は、虫が付いていないかよく確認してから植え付けましょう。
余談ですが、アクアポニックスでは必要に応じて農薬を使うこともできます。ここで詳しい説明は割愛しますが、いわゆるde-coupled systemと呼ばれるものです。イチゴなど農薬無しには品質維持が難しいものでも育てられます。サーモントラウトなど冷水を好むものも、このシステムが向いています。
7.その他
その他のデメリットを箇条書きで紹介します。
● 商業用途だと生産できる野菜が限定される。
アクアポニックスでは、実物野菜や果樹なども栽培できますが、収穫まで日数を要するため収益面で営農としては厳しいです。利益を重視すると回転を上げてリーフレタス等の葉物野菜を育てるケースが多くなります。
● 栽培施設の設計を誤ると変更が難しい。
例えば、葉物野菜のシステムでは実物野菜は育てられません。増設する場合も、設計次第では一から作り直すことになります。
● 収穫や定植は既存の農業機械が使えない。
植物工場も同様ですが、構造的に労働集約的になり、コストに占める人件費の割合が高くなります。慣行農法にとって代わるものではない=大規模におこなう農業ではない、とみなされているのが現状です。
アクアポニックス農業のメリット
1.安全で美味しい有機野菜
日本では安全であることが前提なので、海外と比べて安全性への問題意識が低いように感じますが、食べ物の安全性は常に最も大事な指標ですね。
アクアポニックスで育てられる野菜は、無農薬、無化学肥料、無除草剤。魚も抗生物質を使用しない安全なものです。
味もみずみずしく普通に美味しいです。慣行農法の野菜と比べるとかなり日持ちしますよ。品質が良い証です。
余談ですが、3年前にアクアポニックス農場の水を研究所に持ち込み、成分分析してもらったことがあります。結果は、植物工場で使用する養液とかなり構成が似ていました。検査してくれた研究者は、植物工場の専門。アクアポニックスにはさほど興味が無かった方でしたが「これなら育つね。すごいねこれ」と言って、それから研究所の一区画でアクアポニックスもはじめてくれました。今でもたまに相談に通っています。
野菜そのものの成分分析もやってみたいですね。あとはアクアポニックス交流会などで、味比べをやったら面白そうです。普通に美味しいとは思いますが、味の違いまでは一人ではよく分からないのです。
2.生産性が高い(収量多くコスト低い)
初期投資だけでなく、ランニングコストも低いのがアクアポニックスの特徴です。
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- 例えば5千円が手元にあった場合に魚餌は23kg、液肥は4kgを購入できます。そこから育てられる生産量を比較すると違いがよく分かります。
LEDライトも原則不要なので、電気料の差も大きいです。
※年間通して収量を安定させたい場合はアクアポニックスでもLEDライトの使用をお勧めします。
収量についても、慣行農法と比べると同じ面積でも2~3倍以上になります。当然、土作り、水やり、除草は不要なのでコストも下がります。
3.環境にやさしい
アクアポニックスは慣行農法と比べて水を7~9割ほど節水できます。また、農場から排出されるのは魚のフン(有機物)※のみ。土や空気を汚すこともなく、極めて環境に優しい農業です。農業だけでなく、環境問題のソリューションとしても注目を集めています。
ちなみに、魚のフンは排出させず、農場内で栄養源として再利用もできます。また、培養土としてリサイクルすることも可能です。
4.設置場所や規模は自由
アクアポニックスは土が不要なので設置場所を選びません。植物と魚と微生物のバランスさえ合わせれば規模や形も自由自在です。
温室や植物工場タイプはもちろん、都市農園、家庭菜園、教育用、園芸介護用、店内展示など、用途に合わせて様々なものを作ることができます。
5.養殖業の水浄化に使える
養殖業においては、在来型の掛け流し式、又は海面生け簀の養殖方法ではなく、これからは環境や生態系、資源に配慮した持続的開発が求められています。
使用済みの養殖汚水を捨てることはもはや許されないでしょう。一方で、循環ろ過システムは非常に高額です。
そういった課題のソリューションとして、アクアポニックス併設によりコストを抑えつつ、野菜の収益を付加することで投資回収期間を短くすることができます。
6.作物以外に多様な収益源
アクアポニックスは生態系ビジネスです。ここに紹介している以外にも、多くの収益化ポイントがあります。
できることからひとつずつやっていきましょう。
7.その他
その他のメリットを箇条書きで紹介します。
● 農業機械への投資が少ない。
トラクターなどの農業機械は不要です ⇔ 労働集約的となり人件費が高くなる。
● 面積当たりの利益が高い。
有機野菜、高密度、高回転、低ランニングコストであり、システムによっては野菜の栽培槽を多段式できます。
まとめ
今回は主にアクアポニックスのデメリットとその対策について網羅的に解説しました。
主なデメリットは6つです。多くは施設の設計時に対応できるものですが、ブランディングなど、個々はもちろん、横のつながり(業界全体)のがんばりが必要なものもあります。
ついでに、メリットについても6つ付記しました。これらはデメリットの対策にもなり得るものです。よく理解したうえで検討を進めてください。
不安な点、質問などあればお問合せください。
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