こんにちは!ハワイでアクアポニックス研修中の大竹です。
アクアポニックスのシステムは、主に次の4種類があります。
・Continuous Flow(C/F)
・Flood and Drain(F&D)
・Deep Water Culture(DWC)
・Nutrient Film Technique(NFT)
大規模な商業アクアポニックスでは、通常DWCやNFTが採用されており、私が研修しているili’ili farmではすべてDWCです。
(逆に小型の家庭菜園用向けのシステムではC/FやF&Dが多くなります。各システムの特徴について詳しく知りたい方は、こちらを参照ください→システムについて)
今回は、商業アクアポニックスでよく採用されるDWCシステムのメリット、デメリットについて紹介していきます!
<DWCのメリット>
①生産性が高い
野菜の株間を密にすることができるため、露地栽培と比べて生産性が高くなります。
ili’ili farmでは主にリーフレタスが栽培されていますが、野菜ベットのラフト(野菜ベッドに浮かべられた発泡スチロール板)には1枚(4フィート四方)あたり60個の穴があいており、1つの穴でレタス1株をを育てています。
これを1㎡あたりに直すと約50株が栽培できることになります。露地栽培では1㎡あたり7~9株といわれますので、この差は歴然です。
また、アクアポニックスは野菜の成長が露地栽培よりも早くなります。レタスの場合、通常約60日~70日かかるところを40~50日ほどで収穫※できます。
※約2週間の育苗期間を含む
更に、耕起の必要がなく連作障害もないため、収穫したその日に次の苗を植えることができ、回転率も非常に高くなります。
②作業がしやすい
DWCは作業がとても楽です。特にili’ili farmでは野菜ベッドの高さが人の腰くらいになっているため、立ったままの姿勢で作業することができます。
高設化された野菜ベッドは、苗の移植や収穫などの作業がしやすく、作業スピードも格段に速くなります。
例えば、野菜の収穫はナイフを片手に持ち、根元からカットして収穫しますが、1株の収穫にかかる時間はわずか2~3秒。1時間以内に一人で1000株以上も収穫できることになります。
腰を大きく曲げたり、かがみ込むこともないので、腰や膝を痛めにくいのもメリットでしょう。
③水質、水温が安定しやすい
DWCは、システム規模が大きくなればなるほど水の量は大きくなるため、水質が安定しやすくなります。
ili’ili farmの場合、野菜ベットの大きさは幅4フィート(約1.2m)×長さ96フィート(約29.2m)×深さ18cmが合計で30テーブルあり、魚タンクは500ガロン(約1,892リットル)が3つあるため、システム全体での水の量は約20万リットルにもなります。
水の量が多いため、水質が突然大きく変わるということがなく、結果、管理がしやすいと言えます。
また、DWCでは野菜ベットにラフト(発泡スチロール板)を浮かべますが、それが断熱材としての役割を果たし、日中の日差しや夜間の放射冷却による水温の変化を抑えてくれます。
④構築が簡単
第3回のレポートで紹介したとおり、DWCはコンクリートブロックと2×4材、合板、防水シートだけで作ることができます。特に難しい知識や重機などを要しません。また材料もホームセンター等で容易に手に入るため、資材の調達に困ることもありません。
システムの増設もしやすく大型化も容易であるため、大規模なシステムに向いていると言えます。
⑤自由度が高い
DWCは構造がシンプルなので、作業手順や育てる野菜、土地の条件に合わせて規模・形を自由に設計することができます。
ili’ili farmでもレタスやネギを育てるシステムとは別に、クレソン用の野菜ベットがありますが、背が高くなるクレソンのために囲いをつけたDWCを採用しています。
囲いはクレソンを収穫する基準にもなっており、囲いの高さを超えたクレソンが収穫されるようになっています。この工夫は誰が見ても収穫時期がわかるため、とても実用的です。
⑥省エネルギー
DWCシステムでエネルギーを必要とするのは、水を循環させるポンプと水に空気を供給するエアレーションのみです。トラクターやコンバインなどの農業機械は必要ありません。
また、システムの設計によっては、大規模な農場であっても1台のポンプで水を循環させることができるため、電気の使用量も抑えることができます。
太陽光パネルを使用すれば再生可能エネルギーでシステムを動かすことも十分に可能です。
<DWCのデメリット>
続いて、DWCのデメリットについて紹介します。
①トラブル発生で大量の水が流出
メリットでも紹介しましたが、DWCは大量の水をシステムの中に蓄えています。そのため、配管や水槽から水漏れが発生すると大量の水があふれだします。
先日、ili’ili farmでも、魚タンクと野菜タンクをつなぐ配管で水漏れが発生し、多量の水が流出しました。その結果、魚タンクの水位が半分程度まで減り、気づくのが遅れていたら魚に大きな影響を与えたことでしょう。
システム設計には、こうしたトラブルが発生した時、如何に被害を小さくできるかについての工夫が求められます。
②資材の腐食に注意
DWCでは、野菜ベッド(木製)の底と防水シートに穴をあけて配管を通し、パッキンで水漏れを防ぎます。その際、パッキンや野菜ベッドの劣化等により水漏れが発生することがあります。
ili’ili farmの野菜ベッドは木製の合板を使っているため、木が腐食し修理を要する箇所が出てきています。特に木材でシステムを構築する際には、腐食対策を施すことが大切です。
③野菜ベット内の掃除が大変
野菜ベット内には、育苗時に使用する用土や、藻が溜まることがあります。ili’ili farmではそれに加え、ウキクサが侵入して増殖し、水中の栄養を奪っています。こうした汚れやウキクサを除去するために定期的に掃除をしますが、この作業が手間がかかります。
まず、ラフトをすべて外し、ポンプを使って排水します。それからブラシなどを使って汚れを集め、専用の掃除機で吸い取り綺麗にしていきます。
システム規模が大きくなればなるほど、この作業に時間がかかり人手を要すことになるでしょう。加えて、ラフトにも藻などの汚れが付くことがあり、こちらも場合によっては洗浄を要します。
④ネットポット絡みの作業が大変
DWCで野菜を育てる際は、ネットポットを使います。ハイドロボールなどの培地を使うC/F、F&Dでは不要ですが、DWCでは苗を固定するために必要となります。
そのため、苗を移植する際には、まず発泡スチロール板の穴にネットポットをセットしてから、苗を植えなければなりません。また野菜を収穫した後はネットポットに根が残るため、ポットから根を取り除く作業が必要となります。
根を取り除く作業は野菜の収穫量と一致するため、収穫が多くなればなるほど作業量も増えます。ili’ili farmでは、営業日は毎日収穫があるため、それに合わせてネットポットの作業があり、収穫が多い日はこの作業に2、3時間を費やすこともあります。
<まとめ>
いかがでしたか?一般的に採用されるDWCシステムにもやはりデメリットはあります。
設計において自由度が高い分、実際にシステムを作る前に、何の野菜をどれだけ育てるか、作業手順はどのようにするかなど総合的に考えなければなりません。
システムを構築した後では手直しをするにもコストや労力を要しますし、構築後では修正できないこともあります。
特に中規模以上のシステムを構築する際には、経験者に頼るか、まずは小さな実験棟を作ってある程度の知見をためてから設計に着手することをお勧めします。
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