√この記事を書いている私の経歴
・自社のアクアポニックス研究農場&生産農場を神奈川県藤沢市に開設
・収穫量が7倍以上、LED電気代が半額になる縦型栽培システム「水耕タワー」を発売
・世界で初めてアクアポニックスに特化した生産管理アプリ&センサーをリリース
・過去2年間で30以上のアクアポニックス農園を全国に開設(日本最大規模を含む)
・著書:「はじめてのアクアポニックス」
アメリカでアクアポニックス事業に関する研究ニーズが高まっており、USDA(米農務省)および各機関からの資金を得て研究をはじめる大学が増えています。
なかでもよく知られている研究として下記の大学があります。
・Cornell University
・University of Hawaii
・University of New Hampshire
・University of Wisconsin等
今回は、そのなかでUniversity of New Hampshireを訪問、研究者から直に話を伺いました。
アクアポニックス研究所訪問(ニューハンプシャー州)
【訪問先】ニューハンプシャー大学 研究農場 (アメリカ ニューハンプシャー州)
【応対者】トッド助教授(農業工学、生物学)、ショーン氏(大学院生)
【規模】9m × 15mのハウス3棟、栽培面積 20㎡/ハウス
【収量】レタス320株/週、ティラピア(いずみ鯛)45kg/3カ月
Q, 数ある研究テーマのなか、なぜアクアポニックスを研究しているのですか?
現在世界中で消費されている魚介類の半分以上は水産養殖から生産されています。世界的な水産養殖業の成長と需要の増大は、食料(魚)の安全性と質に対する懸念を引き起こしています。
同時に、米国における水産養殖業の成長は、課題(立地)と操業コストの問題によって抑制されており、結果として低い利益率と高いリスクをもたらしています。
操業コストについては餌代(魚紛)の高騰もさることながら、魚の排泄物処理(水の浄化)が課題となっています。これまで排泄物をいかに処理するかに焦点が当てられてきましたが、これは費用がかかり、ビジネスとして非効率的です。
そこで、私達は水産養殖から排出される廃棄物を効率的に再利用する方法、すなわち養殖施設からの廃棄物処理プロセスを収益化させるために、既存の養殖施設に統合できる野菜の水耕栽培システムとして、アクアポニックスに着目しています。
単に廃棄物(魚の排泄物)を処理して排出するためにお金を使うのではなく、売れる製品(野菜)を生産することができます。
Q, 具体的な研究テーマを教えてください。
大きく3つのテーマがあります。1つ目は、栄養バランスについてです。魚(の排泄物)から生産される養分の量と質、およびそれらが植物の成長にどのように影響するかの関連付けを行っています。
2つ目は、安全性のガイドライン作り。消費者にとってアクアポニックスで生産された作物が如何に安全であるかを理解してもらうことが目的です。
現在は、1つ目の栄養バランスについての研究が主ですが、ここに目途がつけば、3つ目として、より収益性の高い生産システムおよび生産プロセスを確立したいと思っています。
Q, 栄養バランスの研究について詳しく教えてください。
どのようにして魚の排泄物を良質な植物の栄養素に変換することができるでしょうか。水耕栽培に必要な栄養素の大部分は水中に存在しますが、魚の排泄物(有機肥料)そのままでは植物が栄養として吸収しづらいため、一定の処理が必要となります。現在、固形廃棄物(魚の排泄物)を処理して植物に適した栄養溶液の開発に取り組んでいます。
また、別のテーマとして、植物に必要な栄養素の相対的な割合と化学量論があります。試験栽培において、カリウムが少なすぎる、微量元素が多すぎる(一部少なすぎる)等について実証しました。
※補足:現状のアクアポニックス管理では、これら必須栄養素の欠乏は外部から添加(追肥)することで対処しています。カリウムに加え、鉄、カルシウムも追肥します。
Q, 魚の排泄物処理の方法として、弊社では高機能フィルターと微生物による分解を採用しています。現在、好気性微生物と嫌気性微生物の分解プロセスについて検証していますが、その点で分かっていることがあれば教えてください。
現時点において、固形廃棄物(魚の排泄物)から栄養分を抽出するための最も適切な手段に関する基礎データはありません。今の研究が進めば、必然的に好気性および嫌気性微生物の廃棄物処理プロセスの効果が特定できるでしょう。
Q, 魚と植物で同じ水を共有するシステムには、pH管理という問題があります。一般的に、魚は植物よりも高いpHを必要とします。また、(使用するかは別として)例えばイチゴは農薬無しに品質を揃えることは容易ではありません。こういった問題の対処としてDe-coupledシステムは理にかなっていると思いますが、このアプローチは機能しますか?
※補足:アクアポニックスは魚と植物が同じ水を共有して水を循環させる統合型(couped)システムが基本。デメリットとしてPh管理(水質管理)、農薬、衛星管理があり、これらの解決方法として近年になって分離型(De-coupled)システムの運用がはじまっています。どちらが優れているかについて研究者や農家で議論が交わされており現時点において結論は出ていません。
はい、機能します。どちらもメリット、デメリットがありますが、統合型(Coupled)システムは各システムを別々に管理運用するよりも、作業工程においては効率的です。
Q, アクアポニックスは高い生産性と環境的配慮の両立ができる生産システムですが、最も適した活用法はどのように考えていますか?
アクアポニックスの未来は、水産養殖と水耕作物の生産です。繰り返しになりますが、今後養魚業者は世界的需要の増大に追いつくために生産を増やす必要があります。そしてそのために廃棄物処理にかかる莫大なコストを削減しなくてはいけません。
水産養殖システムと水耕栽培システムを統合することで(=アクアポニックス)、コストをかけずに一年中、一定の栄養素生産と摂取のバランス(=廃棄物処理システム)が生まれます。そして、水耕栽培による有機認証を得た野菜によって更なる利益を得ることになるでしょう。
アクアポニックスは、水産養殖含めた農業システムにおける資源の無駄使いを私達に気づかせてくれます。
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