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農業基本法の改正ポイントをわかりやすく解説!アクアポニックスとの関りはあるのか?

研究開発

「農政の憲法」といわれる農業基本法が、25年ぶりに改正されたというニュースを聞いた方も多いのではないでしょうか。この農業基本法は具体的な政策が書かれているものではなく、日本の農業政策についての方向性が定められているものになります。
つまり、改正点の内容を知ることによって、今後の農業がどのように発展していくのかが理解できると言えます。

この記事では、
・そもそも農業基本法って何?
・どのように変わったの?そして、なぜ今なの?
・今回の法改正で、アクアポニックスを取り巻く環境に影響はあるの?
といった疑問にお答えします。

1.農業基本法とは

  • 1-1 農業基本法の歴史と内容

農業基本法は、日本の農業政策の基盤となる法律として1961年に制定されました。
もともとこの法律が目指していたものは、「農業の生産性向上」と「農業者の所得向上」です。終戦後のめざましい経済成長の中で、農家とそれ以外の産業で働く人々の収入格差の広がりを抑えるため、「高付加価値作物へのシフト」や「食糧管理制度による価格維持政策の見直し」を進めていくことを目的としていたのです。
つまり、農家主体の法律でした。
しかし、国際化の著しい進展などにより国内の食糧事情も大きく変化してしまいます。例えば、食料自給率の低下、農業従事者の高齢化や農地面積の減少、農村の活力低下などです。
そこで、1999年に食料・農業・農村基本法が制定され、4つの大きな方針が立てられました。

1.食料の安定供給の確保
-国内生産、輸入、備蓄を組み合わせ、食料を安定供給する
2.多面的機能の十分な発揮
-環境保全など食料供給以外の機能の充実
3.農業の持続的な発展
-効率的・安定的な農業経営(担い手)の育成による農業の発展
4.農村の振興
-食料生産が行われる農村の生産・生活環境の整備

農業基本法は、これらの方針に沿った施策を通じて日本の農業の発展と食料の安定供給を支える役割を果たしてきました。
しかし、近年の環境変化や経済状況の変化に伴い、現行の法律では対応しきれない課題が増えてきています。

  • 1-2 改正の背景

農業基本法の改正の背景には、以下のような要因が挙げられます。

1.安定した食料確保の重要性:
世界的な食料需給の変動や食料価格の高騰に対応するため、食料安全保障の確保がより重要となっています。
日本や世界での大災害や気候変動、国家間の紛争とそれに伴う物資の問題はこの数年で大きな影響を与えています。特に、近年のロシアによるウクライナ侵攻や、中国の尿素の輸出規制などは、小さな島国である日本にとって「資源」という課題を突き付けた出来事でした。
そのため、国内生産の強化と輸入依存の低減が求められているのです。

2.さらに環境負荷の低い産業へ:
地球温暖化や環境汚染の進行により、環境に優しい持続可能な農業システムへの転換が急務となっています。特に欧米では日本以上に環境への危機感や保護意識が高いと知っている人も多いのではないでしょうか。
確かに日本は高温多湿で農地面積も狭いため、農薬や化学肥料に頼らざるを得ない部分もあります。しかし、日本ブランドの農作物を作り、輸出を強化するためには、生産活動が環境に与える負荷を低減し、持続可能な食料生産を実現することが求められています。

3.人口減少と地域コミュニティの維持:
日本国内の人口減少と高齢化が進む中で、農村地域の活性化と持続可能な地域社会の維持が重要な課題となっています。
若者の農業参入を促進し、地域コミュニティの維持・発展を図る施策が必要です。そのためにも、農家の収益を上げるための価格転嫁や、農地集約などによる効率化が求められているのです。

これらの背景を踏まえ、農業基本法の改正は、日本の農業を取り巻く現代の課題に対応し、持続可能な未来を築くための重要な一歩となります。次は、具体的な改正ポイントについて詳しく見ていきます。

農林水産物純輸入額の国別割合
国内外のマーケットの変化

2.農業基本法の改正ポイント

今回の改正法のポイントとしては、次の4つにまとめることができます。

1.食料安全保障の確保
2.環境と調和のとれた食料システムの確立
3.農業の持続的な発展
4.農村の振興

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

1.食料安全保障の確保
改正された内容を見てみると、「食料安全保障の確保」は重要な基本理念の一つとして位置付けられていることが分かります。
世界的な人口増加による食料不足への懸念や、気候変動による生産減少で輸入がストップしてしまうなど、近年では国内だけでなく国際的な枠組みの中で、どうやって安定的に食料を供給できるかということが大事になっています。
そのため、今回の改正法では「食料の安定供給」から「食料安全保障」という一歩踏み込んだ表現に代わっています。

具体的な取り組みとしては、
・国内農業生産の増大や備蓄の活用、輸入相手国を分散することで過度な輸入依存を減らす
・国内市場の縮小を見越した海外市場も視野に入れた産業への転換(ブランド化、輸出力の強化)
・消費者動向を踏まえながらも、生産コストを価格に反映させていくことで農業を持続可能なものにする。また、そのためにも消費者側の理解促進を進める

などが挙げられています。

2.環境と調和のとれた食料システムの確立
日本の農産物の輸出力を強化するためにも、「その野菜がどのようにして作られたか」という視点は非常に重要になっています。
特に環境負荷の低減に対する意識は日本より欧米のほうがはるかに高いのが現状です。日本ブランドを強化するためにも、環境負荷を下げるための取り組みは必須となっています。
すでに農林水産省が2021年に策定した「みどりの食料システム戦略」の中で、減化学肥料、減農薬、有機栽培面積の増加などが目標として掲げられていますが、まだまだ道半ばです。

食料供給が環境に負荷を与えているという側面を理解したうえで、それを低減するための技術の共有や生産者の環境意識を高めることが必要とされています。

3.農業の持続的な発展
農業を持続可能なものにしていくためには、農業が「稼げる産業」であることが大事です。生産者がいなくなってしまっては、食料の安定供給はさらに難しくなってしまいます。
しかし、農家の平均年齢は66.8歳(2019年時点)であり、就農人口も2010年から2019年までに約100万人減少しています。少子高齢化が進む日本では、単純に就農人口を増やして供給力を上げるという方法は現実的でないかもしれません。
これを改善するために、「生産性の向上」と「付加価値の向上」が基本理念として追記されています。

具体的には、スマート農業や農地集約による生産の効率化や、農業経営の支援を行う事業者の活動促進などが挙げられています。
ドローンやIoT技術を用いた省力化だけでなく、新しい技術を取り入れることで生産物の付加価値が高まるような取り組みも目指すように言及されています。

4.農村の振興
東京などの都市部に人口が集中し、多くの農村では人口減少が続いています。「限界集落」という言葉もここ数年でよく耳にするようになりました。
集落の存続や農業インフラの維持が困難な現状を改善するためにも、農村の振興を図ることも目標とされています。

都市部から農村への移住推進もその解決策の1つですが、実際に移住となると大きな決断になります。そこで、「農泊」といわれる農村への宿泊体験や地域資源を生かした事業を展開することで、農村とかかわる人(これを農村関係人口といいます)を増やすことなどが盛り込まれています。
また、農福連携の環境整備を進めることも改正法の中に規定されるようになりました。

基幹的農業従事者数の推移と年齢構成

これらの改正ポイントは、現代の食料、農業、農村を取り巻く課題に対応し、持続可能な農業の未来を築くための重要な基盤となることを目指していると言えます。
次は、アクアポニックスがこの改正農業基本法の目標達成にどのように貢献できるのかについて詳しく見ていきましょう。

3.アクアポニックスができる貢献とは

  • 1.持続可能な食料生産システムとしての役割

・循環型システムによる資源の有効利用
アクアポニックスは、魚と植物が共生する循環型システムであり、資源を有効利用することができます。魚の排泄物は植物の栄養分となり、植物はその栄養分を吸収して成長する過程で水を浄化します。
システム内で植物の栄養素を作り出すことができるため、肥料などの使用料を減らすことができます。

・無農薬、化学肥料不使用の安全な食料生産
微生物や魚がいるアクアポニックスでは、農薬や化学肥料を使用することができません。
このため、アクアポニックスで生産された野菜や魚は、安全で高品質な食品として消費者に提供することができます。また、日本国内でもオーガニック市場は拡大傾向にあり、高付加価値の商品を販売することもできるでしょう。

  • 2. 環境負荷の低減と資源効率の向上

・水資源の節約
アクアポニックスは、従来の農業に比べて水の使用量が大幅に少ないのが特徴です。閉鎖型のシステムで水が循環するため、水の蒸発や排出が最小限に抑えられます。
このため、水資源の節約が可能となり、乾燥地や水資源の限られた地域でも効果的に利用することができます。

・大規模化によるメリット
基本的に農業では大規模になるほど農薬や化学肥料の使用が必要になるため、環境負荷がかかってしまう傾向にあります。
しかし、アクアポニックスはそのシステムの性質から、規模の大小にかかわらず環境負荷を下げた農業を行うことが可能です。つまり、大規模になればなるほど、より大きな環境へのインパクト(もちろん良い意味で)を与えることができるのです。

  • 3. 地域コミュニティへの貢献

・地元産業との連携と新たなビジネスチャンスの創出
地元産業との連携を通じて新たなビジネスチャンスを創出することが期待されています。
例えば、地元の農産物市場やレストランに新鮮な野菜や魚を供給することで、地域経済の活性化に寄与します。
また、観光資源としても活用でき、観光客に対して持続可能な農業の取り組みを紹介することができます。
導入する場所としても、廃校や休耕地などを利活用することで雇用の創出にもつなげることも可能です。

・教育への活用
海外ではアクアポニックスは教育ツールとしても活用されています。
生態系や食育を学ぶことなどを目的に、地域の学校やコミュニティセンターでイベントを開くのも良いかもしれません。アクアポニックスの仕組みや利点を紹介することで、持続可能な農業の重要性についての理解を深めることができます。
また、ワークショップや見学会を通じて、実際の運用方法を学ぶ機会を提供することもできます。

アクアポニックスの特徴などについて詳しく知りたい方は、こちらのブログがおすすめです。
アクアポニックスの超基礎② 魚で野菜が育つとはどういう仕組み?
アクアポニックスの超基礎③ アクアポニックスのメリットは?
アクアポニックスの超基礎⑤ 日本における課題とおうち菜園の取組み

4.改正農業基本法がアクアポニックスに与える影響

  • 4-1法改正によるアクアポニックスの普及支援

改正農業基本法は、持続可能な農業システムの普及を支援する施策を含んでいます。
これにより、アクアポニックスのような環境に優しい農業手法が広く普及することが期待されます。政府や自治体の支援が進むことになれば、アクアポニックスの導入が促進され、持続可能な食料生産システムとしての役割がさらに拡大するでしょう。

  • 4-2資金援助や技術支援の強化

持続可能な農業技術の導入に対する資金援助や技術支援が強化される予定です。
アクアポニックスが持続可能な農業として認知されることで、補助金や助成金などの導入に必要な初期投資や技術支援を受けられるようになるかもしれません。
そうなることで、新規事業としての参入はもちろん、現在は慣行農業をしている農家さんや水耕栽培を行っているプラントがアクアポニックスに転換する事例も多くなってくると期待されます。

以上のように、アクアポニックスは持続可能な農業システムとして、多くのメリットを提供します。
今後は補助金や助成金の支援を受けやすくなることで、アクアポニックスがさらに普及し、環境保護や地域経済の発展に寄与することが期待されます。

海外では大規模なアクアポニックス農場も多い

5.まとめ

改正農業基本法は、現代の農業が直面するさまざまな課題に対応し、持続可能な農業の未来を築くための重要なきっかけになると思っています。
食料安全保障の強化、環境と調和のとれた食料システムの確立、農業の持続的な発展、そして農村の振興という四つの柱を軸に、総合的な施策が展開される予定です。

この改正により、アクアポニックスのような持続可能な農業システムが一層注目されることが期待されます。アクアポニックスは、資源の有効利用や環境負荷の低減に寄与し、無農薬で安全な食料生産を実現します。
また、地域コミュニティへの貢献として、教育普及活動や地元産業との連携を通じて新たなビジネスチャンスを創出します。

日本国内では、まだまだアクアポニックスに対する認知は低いのが現状です。しかし、今回の改正によって、資源効率が高く環境負荷の少ないアクアポニックスのような農業の重要度は、一段と増してきていると言えます。

今後、改正農業基本法の施策が実行されることで、環境と調和した食料生産が広がり、安全で持続可能な食料供給が確立されることが期待されます。
アクアポニックスは、その中心的な役割を担い、未来の農業における重要な存在としての地位を確立するでしょう。

<参考HP> 農林水産省

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